これは、『立誠小学校プロジェクト』と名付けた講座の記録をもとにした映像作品。
『立誠小学校』とは、京都の中心街木屋町に立つ60数年前に建てられた小学校である。
長い間地元の多くの子供達が通い学んだが、8年前に廃校となった。
町の中心地から子供の数が減り続けていったことが原因であろう。
歴史を感じさせる古い校舎の建物だけが残ったが、まだ使われ方は決まっていない。
この建物を今後、どのように活かすかは実は重要な意味を持っている。
なぜなら、京都の町では今も多くの歴史的な建物や町家がマンションなどに変わり、この町ならではの、古くからの美しい町並みがどんどん失われつつある。
明瞭な活用案を示し、この文化遺産のひとつを商業主義の手から守らないと、やがてはこの町そのものが消滅する。
跡地検討委員会も設置され、町の人達(特にこの小学校の卒業生達)によってこの学校の今後の活用が真剣に討議されている、というのが現状だ。
京都の景観について興味をもち、自らこの学校の構想を進めていた私(映像の作者)は、自分が教えている芸大の彫刻科の学生達を誘って、短期間ながら集中講座の中でこの小学校の再活性案を考えてみてはどうかと思い立った。
学生達にとって、社会への参加をイメージしながら創作したり、それを実際に自分で提案するといったことは大切な経験だ。
また『元・立誠小学校』建物を運営実行してゆく町の人達にとっても、若いもの達の意見を聞くことはきっと参考になることが多いであろう。
この小学校を通して町と学生達とが仲良く協力し合っていくきっかけになればと考えた。
講座名は大きく『立誠小学校プロジェクト』とした。
「自分達:彫刻コース3回生になら何ができるか。」をもとに、『元・立誠小学校』建物を活かすための空間を構想する。
現場に行って、その場で発想した案を自分達の手で表現化し、実際に町関係者にプレゼンテーションすること、を課題とした。
課題のスケジュールは次のように決めた。
| 6/20(水) |
『元・立誠小学校』を見学する。
見学しながら構想を「場から発想する。」 |
| 6/27(水) |
「自由発想案」の提出。 |
| 7/4 (水) |
「ドローイングによる構想」の提出。 |
| 7/11(水) |
「立体模型による構想」を作り、町の人達に発表する。 |
| 7/18(水) |
「プレゼンテーション」としての個人作品の完成。 |
6月初旬、いよいよわたしからの許可願いが受け入れられ、小学校の内部を見学してもよかろうとの許しがFAXで届いた。
集中講座『立誠小学校プロジェクト』のはじまりである。
記録を目的としながら、映像作品として思い切って言葉は省略した。
むしろ今は使われていない小学校の静かな情景と、緊迫した場面で学生一人一人が見せる表情の豊かさとに目を向けて映像化した。
これによってこの講座の「学生よ、現場で発想し、現場で表現しよう。」というメッセージがより明快に、爽やかに表わせたのではないかと思う。
彼等による作品の内容は以下のようである。
藤本典子:
彼女は学校をコミュニケーション復活の場と考え、子供同士や、子供とお年寄りが自然に会話できるように、ゆったりと寝そべって話せる大きなまるいベンチのようなものを内外に作って置いてはどうかと考えた。
田村哲也:
学校の屋上から見える木屋町の盛り場に目をむけた彼は、一見雑然と映る看板群を否定することなく、これを逆に生かす方法はないものかと思った。
「木屋町は恋の町」をテーマに、彼独自の看板オブジェを作り、学校だけでなくそれを囲む地域そのものから活性化させたいと考えた。
寺西里香:
古い校舎の廊下や階段のひそみに見える、暗く静かな情景に目をうばわれた彼女は、ガラス玉 でできたオブジェを作り、それを廊下の天井から下げたいと考えた。
陰りの中で、小さくきらきらと輝く新しい情景を作りたいと考えたのだ。
橋本敦史:
彼は、前を流れる美しく小さな川のせせらぎに目を向けた。この高瀬川という川は、その昔、この町に人や米や木材を運ぶ運河の役目をはたした大切な川であった。
「船着き場」というテーマをもとに、再び人と川とが交流する場を作り出したいと彼は考えた。
金城美枝:
静かな校舎の中をゆっくりと歩いてみた彼女は、学校の中には外の世界とは全くちがった別 な時間が流れていることに気付いた。
そこで「静かな校舎の中」、「賑やかな外の雑踏」、「今も昔も変わらず流れる川の流れ」をそれぞれ別 々に撮影し、それを学校の外壁に並べて映写する。それによって「時間」の存在感を表現したいと考えた。
横田成子:
彼女は教室のもつキューブリックな形状に興味をもった。そして「保健室」や「放送室」、「図書室」といった、彼女にとって懐かしいキューブリックを、「医療相談室」や「FM
ステーション」、「古本屋さん」といった今、町に機能するものに再活用できないかと考えたのだ。
小松慶助:
狭い校舎内に息苦しさを感じた彼は、運動場に出てホッとひと息ついた。
そして木の間から見る空、水に映る空を見た時の心の広がりを想像した。
ホッとできる空間が町の中にもっとあれば良いのになあと彼は考えた。
彼の作品では、さわやかな紅葉の天井が運動場をおおっている。
山田真梨子:
学校をアーティストのための宿泊施設にしてはどうかと考えた彼女は、皆と一緒に学校で雑魚寝した時の、あの楽しい気分を思い出していた。
大きなウオーターベッドと、あおむけになって見上げると広い空が眺められるハウスを、かつてプールのあった場所に作りたいと提案した。
鎮 裕覚理:
「この世にお化けは存在する」をテーマにしようと彼女は考えた。
そして、ふわふわとした彼女のオブジェを学校のあちらこちらに置いて、どこにもない不思議でファンタジーな空間を楽しんでもらいたいと考えたのだ。
水口拓也:
彼は大胆にも、思いきって学校の建物はなくそうと考えた。
しかし学校の痕跡は残し、それを都会の中ではもはや貴重な存在となった「無目的の場」として活用したいと考えた。
尚、映像の「発表」の場面に流れる臨場感あふれる曲も、原曲は学生の一人、青柳 慎が、この『元・立誠小学校』の場からインスピレーションして作った曲である。
今わたしは彼等ひとりひとりの発想といきいきとしたその表情が、なにものにも替えがたく大切であることを、こころから感じている。
| 映像作品 |
集中講座『立誠小学校プロジェクト』/
12min. |
| 作・構成 |
中崎宣弘 |
| 撮影・編集 |
伊藤 洋文 |
| 撮影協力 |
片嶋健志 |
| 音楽 |
作曲/青柳 慎 [京都造形芸術大学3回生]
編曲/麻 吉文 [挿入部分]
「塩と太陽」「Banboo Chair」Gontiti より |
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