M E N U


サントリーラベルデザイン


Hawaiian Open Bottle


Canadian WILDLIFE ART
Exhibition


California Academy
of Sciences


サントリー山崎蒸溜所


サントリー山梨ワイナリー


サントリー山崎蒸溜所
テイスティングホール


"3万光年の彼方"へ


Wine Label Design

Back to Profile Page



Suntory Reserve

失ってしまった"こだわり"を探す旅へ。


「パッケージング」誌の
1987年10月号『特集、リ・デザインの思想』に、
サントリー新「リザーブ」のデザインをした際の、僕の体験談を書いた。

デザインという仕事は「思想の旅」だと思う。
リ・デザインという旅を通して、僕の心の揺れを記録した。

今でもこのような考え方で、
デザイン提案は進めていきたいと思っている。

事の起りは ぼくにとっての事の起こりは、一年程前。「リザーブを透明瓶にしてみてくれへんか?」というトップからの依頼が、口伝えのままに、要請、命令と形を変えつつ、まだ大阪デザイン室の一角にあった乱雑なぼくの机の上にドスンと落ちてきたことに始まる。 ピュアモルトウイスキーに代表されるように、中味重視の傾向、そしてその中味のおいしさがストレートに出てくる透明瓶の流れがウイスキー界の中でピークにあった時期ではある。また、一方では、他社の透明瓶ウイスキーが予想以上の勢いを持ちつつある状況でもあった。が、しかし、よりにもよってリザーブを、である。
オールドに次ぐ黒瓶の代表であり、その個性の90%は黒、というイメージのサントリーリザーブ。
しかも、営業的にも知名度においても、まさに我社の大黒柱である。
新製品のデザインとは勝手がちがう。ただ単純に額面どおり受けとって、透明瓶にしただけでは済まないようである。  しかも「せっかくのリザーブのオリジナリティをそう簡単に捨てていいのだろうか。」とか「社長はいったい何を考えているのやろ?」と、いろいろと疑問が浮かんでくる。
暗中模索、まず何十枚ものラフスケッチを描くことから始まった。
デザインチェンジなのか、リデザインなのかは、もとのデザインからの変化の幅によるとすれば、このリザーブ、最終的には最初あれやこれやと作ったよりも、変化の幅の小さなところにデザインが落ちついた、といえるかもしれない。 しかし「透明瓶に。」という一番変化の幅の大きいところからデザイン作業を始めたわけで、これはその後、いろんな方向へ決定が揺れた時にも、ぼく自身の中では「一から考えたのだから」という意味で大きな自信に繋がってくれたのである。

まずBARへ 物を創り出すことは、まず夢見ることからだと思う。
  リザーブの姿を想う場所。頭の中に描くためのスペースを、ぼくは自分の机の上ではなく、「サンボア」にすることに決めた。
「サンボア」はBARである。 大阪の毎日新聞の裏にある。つまり、会社から近い。会社の帰りに直ぐ寄れる。裏通 りに面した階段を、2、3段。とんとんと上がり、引き戸をぐい、と開ける。 油引きされた木の床。厚いカウンター。 立ち飲みである。 そのカウンターにもたれて、夕方早い時間から近所の店主らしき人が、のんびりと夕刊を広げている。 特に、この早い時間がいい。 一日の終りの光が、ぼんやりと入ってきて、その光が弱くなるにつれて逆に部屋の中は明るく賑やかになっていく。 この「サンボア」で、リザーブを考えることにした。 棚には、いろんなスコッチが一本一本、整然と位 置し、カウンターの中央正面には、バーテンダーの道具と頻繁に出る国産ウイスキーとが並べてある。 他社のウイスキーと、もちろん角、オールド、そしてリザーブ。 よく磨かれて光るリザーブは、この場で見ると、ますます良く見えてくる。それを認めつつ、あえて「今、目の前にある、このウイスキーをよりいいものにするためにはどうすればいいか」を考える。 大きめのグラス。その内径に沿って、測ったようにピタッと入る真四角な氷。その上にウイスキーが注がれる。 それを見つめながら「いったい、ぼくはこのリザーブのどこの点が好きで、どの点が嫌いなのか?」。 また天井を見上げては、「このBARに合うウイスキーはどんなデザインか?」。自分の頭の中に、自分なりの理想像を描く。 ―――さぞかし深刻な様子に見えたことだろうと思う。 グラスが空になると、一杯分の酒代だけをポケットから出して、さっと出ていく。 その後、数カ月の間、さまざまな形のラフを描いた時も、ロゴや瓶色の一つ一つが次第に決定されていった時も、常にぼくは、このカウンターの上を想定したし、また、このカウンター上で、デザインを確認することになったのである。
サントリーリザーブを考える。 ウイスキー、とくにサントリーウイスキーのことを語るとき、ある年代以上の人は、必ずといっていいほど、少し遠くを見るような表情になる。 それは数々のウイスキーが、自分の何十年かの想い出と一緒に生きているからであろう。 その人達には、角瓶・オールドといった歴代のウイスキー瓶の背景には必ず、セピア色の想い出と自分の姿が立っているのが見えるに違いない。 また、多くの人から、角が憧れの商品であったり、またオールドが憧れであったりで、それを飲めるようになった時は、すごく嬉しかったという話も聞く。 つまり、自分の年代と商品とが、かなり強く結びついているのである。 だから、その人達には、それぞれのウイスキーの形に対して一種のこだわりがある。想い出の中にあるものの形は、変わってほしくない気持ちなのだ。「そうだろうなぁ」と思う。 「では、リザーブについてはどうか?」ということが気になる。 サントリーリザーブでも、同じことだろうと思う。 しかし、やや違うようだ。 発売が1969年〈昭和44年〉である。瓶の裏の「70」というレリーフが示すように、サントリー創業70周年の記念として生まれた、と聞く。 オールド、1940年。角が1937年。白礼に至っては1927年生まれ。 一番近いオールドが46歳であるのに対し、リザーブは弱冠17歳。まさに、親子ほどの年の差があるのである。 そしてまた、1969年といえば、あの「世界の国から、こんにちは」EXPO'70万国博覧会の前の年である。 高度成長期のニッポン。 日に日にファッションが移り、街には商品が溢れ、工場では何百台もの車がオートメーションの流れに乗る。同じように酒場では、リザーブがズラッと並らび、どんどん飲まれていったのではないだろうか。 まさに大量生産、大量消費到来の時期ではあった。 サントリーリザーブは、かつての「あなただけの一本」ではなく、みんなのウイスキーとして育ってきたのかもしれない。 そういうわけで、リザーブについては、その年代からも、その背景からも、人々の想いの中に角、オールドほどのこだわりがないのがわかるような気がする。 デザインの変化にもこだわりがなさそう。というのがわかってくると、気分的には多少楽になったが、一方で、このこだわりに欠ける部分こそが、デザインを良くするための大いなるヒントになるのではないか、ということに気付いたのである。つまり、1969年以降の大量 生産指向の中で、リザーブのパッケージが知らぬ間に失ってしまった、こだわらなければいけなかった部分、それを捜すことが大切なのである。 今、むしろ「あなただけの一本」が望まれている。 同じ商品が、ずらっと果 てしなく並ぶ光景を、誰も美しいとは思わなくなってきた。 一つ一つが違った形をしていることこそ、自然であり美しいと思う。 しかも、それぞれが個性的で健康的で夢を持っていることが、望まれる商品の条件だ。 サントリーリザーブも、そんなウイスキーの一本でありつづけたいのである。 こうして、漠然とではあるが、新リザーブに持たせたいのは、手作りの要素と、一本でも充実した重み、ということになった。 瓶 キャップ そしてラベルを決める おいしそうなデザイン。おいしそうなウイスキーのイメージとはどんなものだろうか? 山深い谷あいで、長い年月をかけた香り高い琥珀色のウイスキーが樽の中で揺らめく、とうのは宣伝でもよく見るパターンである。 緑深い谷あいの底。あるいは、ひんやりとしたセラーの静けさの中。 いつも、ちょっと暗めの中というのがミソである。 その暗い中でウイスキーが揺らめく、というのは、いかにも神秘的でおいしそうな姿である。 表情に重みを持たせるため、という意味でも瓶色はそんなイメージでいきたい。 半分ほどまで飲んだ時、うす暗い緑の瓶の中で、ウイスキーがおいしそうに揺れるように、と。 こうして、ラフスケッチ、ダミーの段階までは存在していた透明瓶案は、しだいに消えていく結果 になったのである。それ以後、瓶色の薄いもの、濃いものの段階がガラス工場で何度も検討されることとなる。 次はキャップ。 大量生産指向の中で犠牲になったものの一つに、ウイスキーの栓があげられると思う。 リザーブは31.5×60(mm)のスティルキャップを使用している。 ビシッを封を切るまではいいけど、その後がよくない。カラカラと、いかにも軽い。「手作りのイメージ」とか「重みをもたせる」からは、まさにほど遠い感覚である。 これこそ、真先に変更した部分であった。と同時に、首巻は黒ベースに白抜き文字のアート紙ラベルを使ったために、ぐっとシャープになった。 さて、最後にラベル、である。 最後の最後まで問題になったのが、瓶色と同様、このラベルのデザインであった。 顔であり、表情である。 まったく、イメージを変えるにしても、あまり変えないにしても、このデザインが他のどの部分よりも影響が大きい。 まったくイメージを変えたものから描いてみる。もちろん瓶色も全て含んだトータルイメージ。タイトルだけが「RESERVE」である。 ロゴも当然、いろいろ作る。色も変える。ラベルの形もさまざま。 これは実のところ、茫漠とした行為であった。なにをもって良しとするかの、よりどころがないのである。「手造り要素」や「重み」にプラスされる何か別 な切り口を見つけないとキリがない。 また、カウンターの上のリザーブを見つめる。 黒瓶に、黒ラベル、金文字である。金一色で統一された文字を見ていると、しだいにこのデザインの意図がわかってくるような気がする。 このリザーブ。本来は、黒瓶に直接金プリントの文字が、浮び上がるようにしたかったのではないだろうか。それが、コストやその他の制約でラベルにせざるをえなかった。 もともと、そんな意図であるから、黒いラベルの紙としての素材感はできるだけ押えて、表に出ないようにしたかったにちがいない。 リザーブは、ラベル感のないデザインであった。 もちろん、黒ベースに金は、スマートできれいだと思う。これこそ、リザーブのオリジナルである。 しかし、あえて、時代の差を言うならば、今はむしろ「ラベル」がほしい時代だと考えるべきではないだろうか。 ガラス瓶にペタッと貼られた「レーベル」を求める気持ち。これは「本物」とか「信用」とか「心」を求めるのと同じ気持ちである。 かつて、「カッコイイ」ことに価値観があったなら、今はそれが「いかに本物か」にあるように思えるのである。 こうして付け加わえられた新らしいリザーブの第3のコンセプトは、以前のリザーブにはない「レーベル感」だった。 そして 今――― 依頼を受けてから8カ月。ついに最終的にデザインが決定された。 もちろん、何回もの試行錯誤、何回もの振幅の末の結果である。 瓶形は首部を除いては、ほぼ同じシェイプ。 瓶色は以前よりも色を薄くし、青みを増した。 一見変化なさそうだが、ウイスキーの揺れが以前よりよく見えて、おいしそうになったはずである。 キャップは周囲にかどのある黒い樹脂キャップ。ヒートシールが替栓防止のための封の役目をする。 ミシン目で破ると、裏面には山崎の風景がプリントされている。凝ったわりには、気付かない人も多いと思うが、ウイスキーの世界には、そんな遊びがあってもいいと思う。 ラベルは黒ベースに金わくをつけることによって、どうにか「レーベル感」を維持できたように思う。 Suntory Reserveは、黒地の中で浮び上がるように、アイボリーにした。 ラベル面にほしかったツヤが、耐摩のためのワックスで消されてしまうのが残念である。今後の技術的な課題だと思っている。 「サンボア」で、自分なりにまず夢見ることから始まった、このリザーブのデザインも紆余曲折、いろんな風に形を変えながら、それでも一つの製品となって目の前に置かれている。 営業面で、どういう活躍をしてくれるかは、これからの様子待ちだが、人々の目に、よりおいしそうに映ってくれたら。そして、あの角やオールドのように、人々の心の中に長く生きつづけてくれたら、と思うのである。